5月16日(日)社会規範コスト

 日本経済新聞春秋に、娘と貧乏長屋で暮らす浪人が、生活費の足しに、と今でいうリサイクル業者に家伝の仏像を引き取るよう依頼する。売れたら、もうけを折半する約束で。実は仏像のなかには小判が入っていたのだが……。古典落語「井戸の茶碗」は、歴代の名人が話芸を競った名作だ。
 ここから、仏像を買った若い武士は「持ち主に返す」。浪人は「既に売ったものだ」と双方、小判を受け取らない。正直者の意地がぶつかる。東京では緊急事態宣言が延長される一方で、演劇場が再開され、温かな人情噺だ。おもしろいのは、人々の道徳と経済的な損得の関係にしたドラマだ。悲しいのは、「社会規範コスト」で託児所で子どもの迎えに遅れる親がいる。罰金を科したらどうなるかを試したところ、予期せぬ結果となった。金銭を支払うのだから遅刻してもいい。そんな親が増えたという。社会規範の問題が、損得勘定に変わってしまった。コロナ対策もしかり、人情噺から叡智を引き出したいものだ。

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